引き寄せの法則

 ある知り合いとのやり取りのなかで、

――この頃、我が家に来る人は、いい人ばかりなんですよ

 と、私が言うと、相方が、

――わたしはいつも、お客さんが来るときには、いいひとがくる、いいひとがくる、って心で念じて、自分に言い聞かせることにしてるわ

 それを受けて、私が、

――つい先日、いつも宿泊する宿が満室で断られて困ってるんですが、泊まれますかと電話が入った。それで、急遽職人さんが一泊したが、やっぱり、いい人たちだった。とび職というと荒くれ男という先入観を持っていたが、そんなことはなく、社長さんは気さくで優しく、二泊の予約をしたのに急の仕事が入って一泊になってしまい申し訳ありませんとしきりに詫びる。従業員の若者二人も実直で朴訥だった

 その少し前には、大田原ツーリズム社からのツアー客で、アメリカの女子大生が三名やってきたが、皆性格がよく、チャーミングだった。ポーランド、中国からの移民、黒人、の子女だという彼女たちは流暢とまではいかないが、日本語が話せた。大学で日本語の講座を受講しているという。話が弾んでいるうちに外国人という感じはしなくなってしまった。一晩しか泊らないのに、別れのときには三人とも涙ぐんでいたのは私達との親交のほどを示しているだろう。

 知り合いは、

――私にはそういった感動を味わったことがないんですよ。涙ぐむなんて。一人で営業しているので、料理や応対で手一杯で余裕がなく、勢い事務的になってしまい、心の交流が出来ないからかもしれません

 という。そして、

――お二人は、そういう雰囲気を持っています。ここに来ると、元気がもらえます。この場所にはパワーがあるのかもしれませんね

 その知り合いも農家民宿をやっている。その関係で交流するようになったのである。
我が家を訪れる人が皆いいひとばかりだというのには、幾つかの要因があると、私は考える。
数年前までは、必ずしもいい人ばかりではなかったのだ。それがここ数年はいい人ばかりになった。それは私達二人が変わったからだ、と私はおもっている。

では、どのように変わったのか――

大きく変わったことは、二人ともほとんどプラスのことしか言わなくなったことである。以前はマイナスのことを口にすることもあったのだが、今はプラスの言葉しか発しないということだ。

例えば、相方は長年の農業の仕事で酷使した上に足をくじいたりした関係で、膝や脚が痛んだりしびれたりすることがあるのだが、痛いとかしびれると言わず、休めば治る、きっとよくなる、と口にしたり、気持ちを痛んだりしびれたりする膝や脚に行かないようにし、楽しいことやいいことに向けるようにしている。そして、膝や脚をあれだけ酷使し痛めたのに、これぐらいで済んでいるのはありがたい、感謝しなければならない、とおもい、

――わたしはついてるわ、嬉しいなあ

 と、絶えず言っている。


 これが、痛いと口にし、なんでわたしだけがこんなにつらいのかしら、などとマイナスのことを言ったとすると、言えば言うほど彼女の潜在意識が汚れてしまう。潜在意識が汚れてしまうと潜在意識は宇宙と繋がっていて、宇宙からエネルギーをもらって身体各所を動かしているのだから、曇っていれば太陽光が地表に届かないように、貰えるエネルギー量が減ってしまう。つまり、身体はガソリンを十分供給できない車と同じ様相を呈することになるのだ。

 また、言葉には暗示力があるから、痛いと言えば、自分に痛いという暗示をかけたことになり、ますます痛くなるし、つらいと言えばますますつらくなのである。

 相方の膝は一時は歩くのもままならないぐらい悪化したが、プラス思考が幸いしたのだろう、今では畑仕事ができるぐらいに回復している。

 それから、このことは何度も他にも記述したことであるが、彼女は一日のうちに数回は、セルフハグをしている。

 セルフハグとは読んで字の通り、自分を抱きしめることだ。自分の胸に手を当て抱くようにして、自分を愛していると念じるのである。彼女は夜床に就いてから、あるいはトイレの便座に座っているときなど、時間にして五~十分はこのハグをやることにしている。セルフハグを続けていると、自分や自分の周囲で次々にいいことが起こるようになるのである。セルフハグは潜在意識を活性化させ、シンクロニシテイを起こりやすくするからだ。シンクロニシテイとは哲学者カール・ユングが提唱した概念で、共時性、意味のある偶然の出来事と訳される。これだけでは分かりにくいかもしれないが、話の本筋と離れてしまうので、詳しい説明は省く。興味のある方は、ユングの著作を読んでください。

 相方は、

――日々、あらゆる面で、わたしはますます良くなっている

 と、心の中で念じることもある。

 要するに、相方は例え身体にマイナスのことがあっても常々プラスのことを口にし、念じているのである。

 それでは私はというと、相方と考え方、方向性はほとんど一致している。ただ、やり方が少々違っているといえる。

 私はマイナスのことを口にしないことは、数年前から習慣化している。そして、プラスのことしか口にしないし、心の中でもプラスのことしかおもわない。知らず知らずのうちに考えがマイナスの方に向いてしまうことはあるが、そういうときはすぐにおもいをプラスの方に反らしてしまう。雑念、邪念、妄念、などがふっと心に訪れることもあるが、そういうときは直ちにクンバハカ法を実施し、おもいや考えをプラスに転じてしまう。これも習慣になっているので、最近では妄想や雑念の類にとらえられることもあまりない。

 クンバハカ法とは、嫌なことがあったり、心が衝撃を受けたりしたときに、それを和らげたり反らしてしまう方法である。やり方は簡単で、肛門を閉める、下腹に力を入れる、肩を下す、この三つを同時に行えばいいのだ。すると、鳩尾や胸、腋の下、股間などにある神経叢が守られるのだ。これはインドのヨガの密法である。

 私も夜床に就いたときセルフハグをしているが、加えて、

――強く、清く、正しく、気高く、美しく

 と、口の中でつぶやく。念じる。

――明るく、楽しく、朗らかに

――信念と勇気をもって、生き生きと

――ついてる、運がいい、嬉しい

――愛、感謝、歓び、希望

 とも、言うことにしている。

 すると、気持ちよく、眠りに就くことができる。これも習慣化していて、毎日継続している。眠りに就く直前は脳が活動を停止し始めるときで、暗示が最も効きやすい時間帯であるという。だから、私は毎日自分にプラスの暗示をかけていることになる。

 二人とも常にプラス、プラス、なにがともあれ、プラスなのである。

 言霊という言葉をご存知だろうか。言葉には魂がこもっていて、力がある。だから、人は口から出した言葉通りになっていく。自分はダメだと言うと、その通りダメになるし、自分はやれる、出来る、と言えば、出来るようになっていくのである。ご自分の過去を振り返ってみてください。そうなっているとおもいますよ・・・。

 さて、私達二人が変わったことの二つ目は、自分のためだけではなく、人のために生きると決めたことである。


 その一つとして、今までは農業は自分たちの食料を確保するためにやっていたのだが、それだけではなく、我が家を訪れるひとに、提供するためにやることにしたのである。民宿を始めたので、我が家にはこれまでになく多くの人が訪れるようになった。お土産として農産物を進呈したところ、とても喜ばれた。喜ばれることほど、嬉しいことはない。作物栽培は、畑を耕し、種を撒き、苗を育て、肥料を散布し、移植し、作物が出来るまで雑草をむしる、といった作業の結果、数か月後に収穫できるのだ。大変といえばいえるのだが、出荷するため、あるいは自分たちの食料とするため、というよりも、お客さんや我が家を訪れる人に提供するために作ると決めてからというもの、何か今までにない遣り甲斐を感じられる。夏場の雑草の勢いはすざましく、4ha(一万二千坪)あるので、刈り終えた頃には刈り始めた場所にもう新たな雑草が生えているといった有様なのだが、お客さんに提供するために、とおもうと闘志が湧いて、作業が苦にならず、楽しくさえあるのである。

 また、私達二人は高齢者の域に入っているので、若いひとにはない経験を積んでいる。加えて、二人は人生哲学を学び実践している。単に本を読むというだけではなく、埼玉まで出向いて、セミナーを受講しているのだ。だから、どう生きたらいいか暗中模索している人にアドバイスができる。農泊ツアーの小中高校生には、夢や目標を持つことの大切さを、その他一般のお客さんには、私達が日々実践している健康法や、よりよく生きていくための心の持ち方や心構えなどを話すことにしている。昨年から今年にかけて、首都圏の東京、横浜、台湾、の小中高生や、ベトナムの留学生、アメリカの大学生、一般のお客さん、計約六十名がやってきたが、手応えを感じることができた。
 
 ところで、表題の「引き寄せの法則」を説明したい。要するに、プラス思考の人はプラス思考の人を引き寄せ、近づき、仲良くなるが、マイナス思考の人とはそりが合わず、反発しあい、離れる、ということである。

別な言い方をすると、同類同士は引き合うが、異類は退け合う、という法則なのである。この世はこの法則に支配されているのだ。だから、この法則を知っている、知らないとでは大違いなのである。

実は私はつい最近まで、そんな法則があることを知らなかった。相方の影響で哲学を学ぶようになり、様々な著作を読むようになったのだが、その過程で彼女の本棚に「引き寄せの法則」に関する本があるのを見つけた。

インターネットで検索してみると、引き寄せの法則に関する本は何十冊も出版されているということが分かった。相方によると、十年以上前アメリカに行ったとき、ロンダ・バーツ著「ザ・シークレット」を読みふけるアメリカ人をあちこちで見かけたという。その本は当時アメリカでベストセラーだったというから、引き寄せの法則はアメリカでもよく知られるものだったのである。私の周辺からそんな声は聞こえてこなかったということは、要するに、私並びに私の周辺の人だけが知らなかったということなのだ。

この法則を知ってからというもの、日々の生活の中で、いろいろなことが「ああ、そうだったのか」と納得でき、精神的に楽になった気がする。


かなり親しくしていたのに急に離れていった人がいて戸惑い、どうしてなんだろうとショックを受けたことがあるが、ああ、そうか、あの人と私は持っているものが違う、要するに異類同士だったんだ、とおもい当たり、受けたショックは雲散霧消していくのをかんじた。
どうもそりが合わず、苦手だと感じていた人が近づいてきて、そのうちに苦手感が消え近しく交流するようになった。付き合ってみると気さくでユーモアのセンスのある人だったということもある。要するに同類項が多く、引き合ったのだということが分かった。

さて、冒頭の我が家を訪れるのがいい人ばかりになったということは、引き寄せの法則からいうと、私達二人が以前はマイナスを言うこともあったので、マイナス思考の人も引き寄せられたが、ここ数年はプラスしか言わないので、プラス志向の人ばかりが訪れるようになったということなのである。

見ず知らずの人がどうして引き寄せられるのか――

人間の潜在意識の奥には集合的無意識の層があって、それは万人共通に持っているという。人の潜在意識は宇宙とつなかっている。要するに、人と人とは離れていても、その潜在意識は宇宙を通して繋がっているのだ。

また、人間の脳は考えたりおもったりすると微量だが電気や磁気を四方八方に放出する、ということもある。微量ではあっても、その電気や磁気は例え何万キロはなれていようと届くという。人間の持つ五感を超えた第六感は、それを察知できるのだ。このことからも、それまでは見ず知らずだったお客さんがいい人だったということも納得できるだろう。私達二人とお客さんはプラス志向の同類同士だったので、引き寄せられたのだ、と。

2018年05月07日